キンチョウスタジアム三たび改修へ

桜の歴史を刻んだキンチョウスタジアム
しばしの別れ、さらに誇れる聖地に——

抜群の勝率。サポーターと共鳴する舞台が三たび改修へ

 大阪府大阪市東住吉区の長居公園内にあるフットボール専用球技場である長居球技場が「キンチョウスタジアム」として生まれ変わったのは2010年。“臨場感と一体感のあるスタジアム”をコンセプトに、09年8月から10年8月にかけて第一期改修工事が行われ、「世界に誇れるスタジアム」が誕生した。

 こけら落としは、10年のJ1第17節・川崎フロンターレ戦。CB茂庭照幸の奮闘などもあってこの一戦をスコアレスドローで終えると、キンチョウスタジアムでの初勝利は同スタジアムにおける2戦目、第19節のFC東京戦だった。4-1で快勝を収めた試合後、当時の指揮官であるレヴィー・クルピ監督は、「我々にとって幸運のスタジアムと呼べるスタジアムになりそうだ。サポーターの方が本当に近くにいる。だから選手たちは持てる以上の力が出せる。このスタジアムではサポーターがセレッソの武器になるということがハッキリ分かった」と述べた。まさにこの試合で見せた盛り上がり、得点のたびに沸き上がる、うねりのような大歓声は、C大阪にとって最高の味方と言えた。

 ちなみにキンチョウスタジアムでのファーストゴールは、この年に加入したFWアドリアーノ。スタジアムの命名権を取得した大阪市に本社を置く大日本除虫菊株式会社から試合後に蚊取り線香を贈られると、「ブラジルにも蚊は多いので、ブラジルに持って帰り、家族と使いたい。これでしばらくは蚊に刺されなくてすむね」と微笑んだ。この年、キンチョウスタジアムでは計9試合が行われたが、結果は7勝2分。シーズン最終節ではジュビロ磐田を相手に6点を叩き込み快勝。鹿島アントラーズを抜いて3位でフィニッシュし、見事、翌年のACL出場権を手に入れた。

 その後も「クラブの成長に応じた段階的な改修」は続けられ、12年と13年のシーズンオフには第二期改修工事が行われた。このときの工事内容は、①南側サイド(アウェイ)スタンドを芝生席から椅子席に変更②北側サイド(ホーム)スタンド(立見席)の増設③バックスタンドのトイレ増設④メインスタンド・バックスタンドの座席を背もたれ・カップホルダー付きに改修、など、他にも細かな部分で改良が加えられた。

 ピッチ内に話を戻すと、11年は開幕からキンチョウスタジアムではリーグ戦7戦勝ちなしと苦しむ時期もあったが、キンチョウスタジアムで行われた最終節では、アビスパ福岡に7-1で圧勝。11年限りでチームを離れることが決まっていたレヴィー・クルピ監督の花道を華々しく飾ってみせた。

 12年にキンチョウスタジアムで行われた公式戦は10勝1分5敗と勝ち越しに成功すると、13年も13試合で11勝1分1敗。無類の強さを誇り、ホームアドバンテージを遺憾なく発揮した。14年のJ2降格により、チームは15年と16年にJ2での戦いを余儀なくされたが、J1復帰を果たした16年J1昇格プレーオフ決勝の舞台も、キンチョウスタジアムだった。雨が降りしきる中で行われたファジアーノ岡山との一戦は、清原翔平(現・ツエーゲン金沢)のゴールで勝利し、見事、J1昇格を達成した。

 そしてここで宿った“勝利の女神”は、17年以降もC大阪に微笑み続けた。

 17年は同スタジアムでの公式戦は15勝1敗とほぼ無敵。そして今季も5勝2分と公式戦負けなしを続けている。そんなキンチョウスタジアムの力も借りつつチームは昨季、初タイトルを獲得して成長を続けると、今年3月にキンチョウスタジアムも、さらに地域に愛されるスタジアムへと成長すべく、「桜スタジアムプロジェクト」がスタート。今季終了後に第三期改修工事が行われることとなった。

 今回はバックスタンドと現ホームゴール裏を大きく拡張する大規模な工事のため、2019シーズン、2020シーズンはホームグラウンドとしてキンチョウスタジアムを使用できない。従って9月14日に行われるJ1第26節の磐田戦は、現状のキンチョウスタジアムにおけるラストマッチとなった。

 10年のこけら落としから今季に至るまで、「客席一人ひとりの顔が見える」(茂庭)距離感の下で選手、サポーターが一体となり、数々の好勝負が繰り広げられてきたキンチョウスタジアム。「この流れで点を取らなアカン、という勝負どころで声援のボリュームが上がる。防戦一方になっているときは、相手にプレッシャーをかけてくれる」(酒本憲幸)サポーターの後押しもあり、近年のキンチョウスタジアムの勝率は非常に高く、まさに“自分たちの庭”と呼べる舞台となっていた。

 そういった愛すべきスタジアムとのしばしの別れは辛いが、改修後、さらに誇れるスタジアムとなり、我々の強い味方になってくれることに期待したい。

KINCHO STADIUM BEST SELECTIONselected by EL GOLAZO

J1第17節 vs川崎フロンターレ 0△0

万感の思いで迎えたメモリアル初戦

 記念すべきキンチョウスタジアムでの初戦。スタンドとの距離が近く、臨場感に溢れるピッチでの試合を終えた後、茂庭照幸は「今までやったどのスタジアムより雰囲気がよかった」と感想を述べた。相手は川崎F。攻撃力の高いチーム同士で打ち合いも予想された中、結果はスコアレスドロー。記念すべき初戦を勝利で飾ることはできなかったが、C大阪に関わる誰もがピッチでのプレーを食い入るように見つめた一戦は、歴史に残り続けるだろう。

J1第34節 vsジュビロ磐田 6○2 【得点者】[C大阪]アドリアーノ4、アマラウ、播戸 [磐田]成岡、前田

大量6ゴールでもぎ取ったACL出場

 J1昇格1年目での快進撃の締めくくりとなった最終節。この試合を迎える前に4位だったC大阪は、勝てばACL出場権を獲得できる可能性もあった。すると、選手たちは満員のキンチョウスタジアムで圧巻のパフォーマンスを披露。FWアドリアーノが4得点を奪う大爆発で、C大阪が6-2で圧勝した。試合後、3位の鹿島が引き分けた一報が届き、C大阪の来季のACL出場が決定。キンチョウスタジアム初年度のフィナーレは、歓喜に包まれた。

J1第34節 vsアビスパ福岡 7○1 【得点者】[C大阪]藤本、清武、キム ボギョン、倉田2、杉本、村田 [福岡]城後

去り行くクルピに感謝のゴール量産

 2007年の途中からC大阪で2度目の指揮を執り、09年にJ1昇格、10年にはクラブ史上初のACL出場に導くなど確かな手腕を発揮したレヴィー・クルピ監督のラストマッチとなったこの試合は、選手たちの監督への感謝の気持ちが表れたかのようなゴールラッシュとなった。藤本康太のゴールを皮切りに、清武弘嗣の躍動もあり、奪ったゴールは7得点。「選手たちは最高のプレーを見せてくれた」と、試合後はクルピ監督も若き才能を褒め称えた。

J1第23節 vs横浜FM 2○0 【得点者】[C大阪]山口、柿谷

五輪で成長、山口が見せた躍動

 2度目のレヴィー・クルピ体制が終わり、この年から桜の指揮官に就任したセルジオ・ソアレス監督。ただし、思うように結果を残せず下位に沈み、この試合が指揮を執った最後の一戦となった。皮肉にも、そんな試合が“ソアレス・セレッソ”におけるベストマッチと呼べる一戦になろうとは…。シンプリシオ、扇原貴宏、山口蛍と並べた中盤が機能したC大阪は、ロンドン五輪で成長を遂げた山口が躍動感のあるプレーを見せ、横浜FMに完勝を収めた。

J1第13節 vs名古屋グランパス 2○1 【得点者】[C大阪]エジノ、柿谷 [名古屋]ケネディ

まるで「ネイマール」の柿谷ゴラッソ

 13年は、J1で21得点を決めた柿谷曜一朗がブレイクした年。中でも、この試合で決めたゴールはまさに鳥肌モノの一撃だった。C大阪の1点リードで迎えた67分、枝村匠馬からのスルーパスを受けた柿谷は左足の甲で鮮やかにボールを止めて前に出すと、トップスピードのまま右足でのシュートを冷静にゴールに流し込んだ。試合後、レヴィー・クルピ監督が柿谷を「ネイマール」に例えるほど、テクニックに溢れた素晴らしいゴールだった。

J1第32節 vsサンフレッチェ広島 1○0 【得点者】[C大阪]シンプリシオ

キム・ジンヒョン、茂庭の堅守で生き残る

 飛躍を遂げた13年の終盤。しびれる上位対決を制し、優勝への望みをつなげた一戦だ。互角の内容で推移した試合は後半に入って52分、柿谷曜一朗のキックフェイントからのパスを受けたシンプリシオが抜け出してゴール。リード後の終盤は、キム・ジンヒョン、山下達也、茂庭照幸らが懸命のディフェンスを見せ、失点を許さなかった。試合後、レヴィー・クルピ監督は「まだ我々は生き残っている」と語るなど、まさに死闘と呼べる一戦だった。s

J2第10節 vs京都サンガ 3○0 【得点者】[C大阪]フォルラン3

これが世界だ。フォルラン圧巻ハット

 大きな期待を背に14年に加入した世界的ストライカー、ディエゴ・フォルラン。もっとも、この年は思うような活躍ができず、チームもJ2降格の憂き目にあった。それでも、フォルランは15年もJ2でプレー。開幕からコンスタントに得点を重ねると、この試合では、記念すべき来日初のハットトリックを達成した。この時点で得点ランキングトップに立ち、35歳11ヶ月10日でのハットトリックは、当時のJ2最年長記録でもあった。

J2第19節 vs徳島ヴォルティス 1○0 【得点者】[C大阪]長谷川

フォルランとの別れ。長谷川が惜別弾

 加入から1年半。ディエゴ・フォルランと戦う最後の一戦が、この試合だった。もっとも、“主役”はメンバー入りせず、スタンドから見守ることになったが、「ディエゴ」に勝利を届けるべく、選手たちは奮闘。山口蛍のパスから長谷川アーリアジャスールが決めた得点が決勝点となり、勝利を収めた。試合後の退団セレモニーでフォルランは、「いつかまた日本に帰ってきたい」と挨拶。場内を1周し、サポーターに惜しまれつつC大阪に別れを告げた。

J1昇格プレーオフ決勝 vsファジアーノ岡山 1○0 【得点者】清原

雨中の決戦、J1復帰に咲いた笑顔の花

 キンチョウスタジアムのベストゲームを選定する上でこの試合は外せない。結果の持つ意味が重く、ただでさえヒリヒリするこの試合の印象を深くしているのは、当日が雨だったこと。スタンド全体がピンクのポンチョで染まった桜一色の光景は壮観で、清原翔平(現・金沢)が値千金の先制点を決めた瞬間、スタジアムは大歓声に包まれた。J1昇格が決定した瞬間は選手たちの目からも涙がこぼれ、キンチョウスタジアムに笑顔の花が咲き誇った。

J1第18節 vs柏レイソル 2○1 【得点者】[C大阪]杉本、ソウザ [柏]武富

杉本、ソウザの逆転劇で12年ぶり首位

 ユン・ジョンファン監督就任1年目の17年。リーグ前半戦を10勝5分2敗の2位で折り返したC大阪は、後半戦最初の試合、キンチョウスタジアムに柏を迎え撃った。前半終了間際に先制されるも下を向くことなく後半を迎えると、杉本健勇、ソウザに立て続けにゴールが生まれて逆転。このリードを、スタンドをぎっしりと埋めたサポーターの声援にも支えられて守り切り、05年の第33節以来、12年ぶりとなるリーグ戦での首位浮上を果たした。

J1第10節 vsベガルタ仙台 2○1 【得点者】[C大阪]清武2 [仙台] 蜂須賀

苦境を救った初先発・清武の2発

 今年4月に行われた一戦。この試合を前に、C大阪はACL MD6の広州恒大戦、J1第9節のG大阪戦と敵地で連敗を喫していた。そんな悪い流れを払拭すべくキンチョウスタジアムに戻ってきた試合で輝いたのは清武弘嗣。ケガで出遅れた今季。この試合がリーグ戦での今季初先発となった清武は、1点を追いかける後半に見事な個人技で同点に追いつくと、GKが弾いたボールをFWばりの嗅覚で詰めて逆転弾。連敗の嫌な雰囲気をホームで払拭した。

J1第22節 vs清水エスパルス 3○1 【得点者】[C大阪]杉本、ソウザ、高木 [清水]クリスラン

真夏の夜に熱く派手に3ゴール快勝

 記憶に新しい、今年8月に行われた一戦。この試合を迎えるまで、C大阪は公式戦8試合未勝利。「今節こそ」。そんな気持ちがスタジアムには充満しており、平日の夜にも関わらず、キンチョウスタジアムに詰めかけた観客数は14,628人だった。そんな熱い気持ちに後押しされるように、杉本健勇にリーグ戦11試合ぶりのゴールが飛び出せば、ソウザ、高木俊幸が追加点。真夏の夜に3発の花火が打ち上がり、リーグ戦8試合ぶりの勝利を手にした。

新生キンチョウスタジアム、完成の全貌図とは

ACL仕様の拡張と一体感。地域に根差したスタジアムに

 C大阪がキンチョウスタジアムの第三期改修に向けて動き出したのは、クラブが新たなステップを歩むためだ。常時ACL出場を狙うチームになるためには、開催できるためのスタジアム基準をクリアする必要がある。約25,000人収容のスタジアムとなることで、臨場感と一体感、そして日本一の親近感を追求。アジア列強の戦いでもさらに相手へ重圧をかける舞台となる。

 「大阪のみんなで、大阪のみらいに、世界に誇れる、世界がうらやむ、スタジアムを贈ろう。」をステートメントに掲げ、戦いの舞台としてだけでなく、地域への還元も今回の改修ポイントとなる。防災拠点としての機能はもちろん、様々な施設を併設させるなど地域に根差した都市型スタジアムというコンセプトも持っている。

 スタジアム改修には寄付やふるさと納税などが活用される。まさにみんなの力で育み、完成した後には、みんなが参加できる場所となる桜スタジアム。「この街になくてはならない存在」として、進化した聖地に生まれ変わるはずだ。

桜スタジアム建設募金団体 公式サイト(https://www.sakura-stadium.jp/)